クテマへの物欲 |
伊フランコ・セルブリン氏がつくる工芸品的スピーカー。
これがなんと475万円(税込)。値引きなし。しかも完全受注生産のため、150万円ほどの
前金を払って、納品まで待つこと1~2カ月。
とんでもない代物なのだ。
ダイナミックオーディオに現物があるというので早速行ってきた。
わざわざ淹れていただいたコーヒーを優雅に飲みながら、色々なディスクをとっかえひっかえ、1時間以上も試聴させてもらった。
うーん。
センター定位のボーカルや楽器は、とてもスピーカーから出てるとは思えないような音がする。こういうのを実体感がある音というのだろうか。これはすごい。
リンダロンシュタットのボーカルやモーツァルトバイオリン協奏曲のクレーメルのバイオリンなど、なんかその場で演奏しているみたいだ。
でもね、それ以外はあまり印象に残らなかった。
クレーメルの後ろのベルリンフィルのオケの音、その他、大編成になればなるほど、なんか普通になっていく。
そう、普通だ。あまりに普通だ。
センターの音の魅力だけで475万円とはいかがなものだろうか。
しかもつながれていたコンポーネントが超ド級だったにもかかわらずだ。
プレーヤーはCH PrecisionのC1+D1、アンプはViolaのSoloとLegacy(Bravoだったかな?)。
それでこの音とは…。
フランコ・セルブリン氏はソナスファベールというスピーカーブランドの創始者でもある。
だからといって、クテマの音がソナスファベールの様な箱鳴きを利用した木質感のある音の発展形だと勝手に思い込むと期待外れに終わるということか。
今のフランコ・セルブリン氏が求める音は、かつてのソナスファベールの音とは違う。それが、フランコ・セルブリン氏がソナス社を去った理由なのだろうか。
でも今のソナスファベールの音も、かつてフランコが追求してきた音とは異なって、HiFi志向になってきているようだ。
ガルネリEVOとか、アマティフトゥーラとか、名前からも工芸品から工業製品に変わろうとしていることは明らかだ。かつて「オマージュ」という名前をつけた時の精神は、いまのソナスファベールからは失われてしまったのかもしれない。
ストラディバリオマージュはともかくとして、クレモナMあたりが、昔のソナスの面影をのこしながらちょっと現代的にもなっている中庸で無難なモデルとしていいんだろうけどなぁ。
ああ、それでもフランコ・セルブリン氏がつくった至高の工芸品「クテマ」がほしい。
こんなものを買ってしまうとものすごく後悔することは目に見えているのだが。